「あ」

部屋を掃除していると何年も前に失踪した靴下(俺に履かれた暦1日)が

ソファーの下から出てきた。

もう諦めていたけれど、出てきてくれて嬉しかった。

もう片方は確か・・・



「無い・・・あ、そうだ」

無くなったと諦めて、この前のゴミの日に出したな。

こう言うのってなんだか切ない気分になるな、センチメンタルってやつか?


















再会



















「あっれ、ティッシュ切れてるし」

部屋が綺麗になって落ち着いたと思ったのに、ティッシュが無い。

全てを完璧にしたい!・・・俺って完璧主義?

なんだか落ち着かなくて外に買いに行くことにした。

沢山着込んで、マフラーに手をかけた。

このマフラーそう言えばに貰ったんだった。

忘れてずっと付けてた。




「・・・まあいいか、会わねえだろ。」















マフラーを少し高めの位置に巻いて自転車を漕いだ。

それでも顔に当たる風を防御できなくて寒い。

早くドラッグストア着かねえかな。

そうも思うけど俺は結構自転車が好きだ。

自転車から見える景色が大好き、これは昔から。

速い速度で色んな物が移り変わるから、なんだか面白い。

だから俺はいつも自転車は全力でペダルを漕ぐ。






だから後ろから急に止められたりすると、すごく危ない。

「っぶねえ!!」

俺は一度前に動いて止まった、これか慣性の法則とか言うのは。

そうじゃなくて誰だよ、こんな事すんの。

「ハハハ、やっぱ面白いね」

楽しそうに笑っているのはさっきのマフラーの彼女、だった。

はっとしてマフラーを隠そうかと思ったけど、此処で思いっきり外した

としても隠す場所が無いし、捨てるわけにも勿論行かない。

とりあえずは、笑っておこう。数年も前のことだから、きっと忘れてる。



「ひ、久しぶり。つーか危ないな、オイ」

「久しぶり、っていうかマフラーまだ使っててくれたんだ」

バレた、すぐバレた。

「あぁ・・うん、なんか愛着湧いちゃってさ。キモい?」

「うん」

大ダメージ。

「・・・ごめん、ごめん!外すわ」

「嘘だよー!」

良かった。

と別れた理由は極めてあやふやだった。

中学三年の時の話だから・・・よく覚えてはいないけど、

や、もしかしたらすごく覚えているかも。

女の子を泣かせたのはその時だけだし、衝撃的だったなぁ。

確か・・・













「もうすぐ卒業だな」

「そうだね」

「あの・・・さ」

「何?」

「俺・・・別れたいんだ。」

その一言を言った時、の顔は引きつった。

ずっと黙ってたけれどしばらくして、強張った笑顔で

「えっ・・・なんで?」

と精一杯に言っていた。

俺にも解らない、ただ高校生になれば駄目になるような気がした。

本当はが好きで付き合ったんじゃ無かった。

付き合ってみたいって言う興味本意だった。

だから・・・高校に行ったら本当に自分が好きな人と付き合いたいと思った。

とは勿論言えなかった。

「・・・ごめん」

そんな理由も言えないような俺のことを、は一生懸命に許そうとしてくれたんだと思う。

それ以上理由は問い詰められなかった。

けど、の目からスッと涙が零れた。

「ご、ごめん。・・・泣いたりして」

なんで謝るんだよ。

「いや・・俺が悪いんだし、ごめん」

本当にごめん。

「・・・今までありがとう、じゃあね」

「・・・おう」




























それっきりには同じ街に住んでたのにも関わらず、ずっと会わなかった。

高校生になったら・・とか思ってたけど高校入ったってそう何かが変わったわけでもなかった。

なのに急な再会、しかも声を掛けたのはの方。

「はい」

「おっ、ありがと」

何故か二人で公園で話してるし、自動販売機でコーヒー買って来ちゃったし。

「マフラーと自転車ですぐわかったよ」

「違う人だったらどーすんの」

「絶対違わないね」

「すごい自信」

「まあね、っていうか今何してんの?」

「ティッシュペーパー買いにきた」

「そうじゃなくて、」

「職種?」

「そうそう」

「しがないサラリーマンですよ、そっちは?」

「へえー・・・あたしはね、写真撮ってるよ」

「すっげ」

「でも、バイトの時間のが正味長いよね」

「それはでもさー・・・」


夢を選ぶか、金を選ぶかじゃない?夢を選んだんだったら頑張れよ。と

俺はそのあとそう言うようなことを言った。(上手く整理がつかなくてたどたどしかったかも)

俺はお金を選んだんだ、大して入りもしないけれど。

そのあともとりとめの無い話をした、のカメラのこと、俺の仕事のこと、昔のこと・・・。

はカメラの話をしているとき、目が輝いていた。

その隣りで俺はの顔をじっと見た、こんな可愛かったっけ。

失礼か。

そしてずっと触れていなかった、別れたときの話になった。

「そろそろ、時候だし。教えて?何で振ったの?」

「えっ・・・」

「もう、いいでしょ?時候、時候。振られた私が言ってるんだし。」

は明るく言った、でも俺がを振った理由を聞いたら・・・

怒って帰ってしまうんじゃないか?という不安もある・・・でも中学の話だしな。

の言うとおり時候かな。(容疑者の俺が言うのもなんだけど)

















「ほんとに聞く?」

「聞く」

「実は・・・と付き合ったの・・」

「興味本意?」

「だったかも・・・かもって言うか、だった。」

「知ってたよ」

は子供に呆れた母親のような顔で笑った。

そうか、俺がどんだけ隠そうがには見透かされてたんだ。

「高校に行って本当の好きな人見つけようとか思ったりして」

「・・・見つかった?」

「いや、今でも正味よくわかんない」

「そっか・・残念だったね」






そのあと少し沈黙が流れて、が空を見たから俺も空を見た。

何だか自分自身の小ささを感じた。

今、隣りにいる人はすごく大きな人だった。

はため息をついて「空気重くなっちゃった、ごめん」と悪くも無いのに謝った。

俺は何も言えなくて、多分変な顔で笑った。





























すると知らない男の声がした。

振り返ると俺を警戒したように見る、自分より年上そうな男が立っていた。

はその男を見るなり、カメラの話をしている時のような輝いた目になった。

・・・そうか、この男が今の彼氏か。

男が近付いてきて会釈をしたので俺も軽く会釈を返した。

「この人が彼氏なの」

「そっか、じゃあ俺ティッシュ買いに行くわ」

「そう、またね」

「うん、また」

そうやって俺は二人と反対方向、ドラッグストアと反対方向に向かって走り始めた。

早く、早く景色が移り変わって欲しかったから。

俺はに好かれているという安心感の中であんな答えを出したことに今更気がついた。

自惚れていた自分を思い出した。
































さん、お前にかなり惚れてんな!」

「そう?」

「うん。ずっとお前のこと見てんもん」

「そっか」

「お前はどうなのよ?」

「・・・わかんねえ」

「あっちが好きだもんな」

「嬉しいと思ってる」

「色男め!!」





















嬉しさが、好きという気持ちだった事に今更気がついた。

早く、早く、景色よ変われ。

再会が以外にも気付かせてくれたのは、今も変わらない自分の小ささだった。























                  fin...







































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